【川崎市市民ミュージアム】親子ワークショップ「コンサバターはモノの探偵!?」〜観察、修復、そして展示へ。WS開催記録〜

2025年5月3日(土)・4日(日)のゴールデンウィークの2日間、川崎市市民ミュージアム主催のワークショップ「コンサバターはモノの探偵!?よく見て・調べて・発見しよう」を、川崎市生涯学習プラザで開催しました。
この記事は、当日を思い出しながら綴った、学芸員さんとコンサバター(保存修復師)で行ったワークショップの記録です。

川崎市市民ミュージアムは、2019年の水害により所蔵品に大きな被害を受けました。被害を受けた作品は多数にのぼり、紙資料、民具、映画フィルムなど、素材も多岐にわたります。修復作業は現在も急ピッチで進められていますが、まだまだ多くの時間が必要です。ボランティアの方々の協力も得ながら、作業が続けられています。

そうした背景のなかで、「修復」をテーマにしたワークショップの機会をいただき、親子で参加できるプログラムを実施することになりました。

川崎市生涯学習プラザ 会場の様子

ミュージアムの中でのコンサバター

保存修復師のことを英語では「コンサバター(Conservator)」と呼びます。ヨーロッパでは、ミュージアムの中にコンサバターが常駐している館も多くあります。コンサバターとキュレーター(学芸員)は、ミュージアムを支える二つの車輪のような関係です。
その関係性が伝わるよう、「観察」「クリーニング」「展示」という流れを一つの体験としてつなげるワークショップを、学芸員の方々と一緒に構想しました。

ワークショップは2日間で計2回実施し、親子で多くの方にご参加いただきました。2時間のプログラムの中で、ミュージアム資料の観察、ミュージアムクリーナーや自作の綿棒を使った修復クリーニング体験、クリーニングしたものの展示と気づきの共有など、内容は盛りだくさんとなりました。
はじめに、川崎市市民ミュージアム教育普及部門の学芸員の杉浦さんから、参加者のみなさんとの関係づくりとして、ミュージアムがなぜこのような活動を行っているのかについてお話がありました。

当日、会場の一角には、ミュージアムに寄贈されたさまざまな資料が並びました。これらは、川崎市内にお住まいの方が昭和期に使用していた道具を寄贈されたものだそうです。着物やお菓子の木型、前掛け、そして「くけ台」という裁縫に使う見慣れない道具まで、さまざまなものが並びました。
学芸員さんが、本物のミュージアムのキャプションのような説明書きを用意してくださったり、展示用の台を持ってきてくださったりしたことで、会場の ”ミュージアム感” は一気に高まりました。

ミュージアムの資料たち。手前にある赤い台が「くけ台」
さまざまな形のお菓子の木型

修復のテーブルも設け、実際に使用するような道具を並べました。私は主に立体物の修復を行っていますが、専門分野が違えば使う道具もまったく異なります。立体物の修復では、メスや注射器、有機溶剤を使用する時はガスマスクなども使います。当日テーブルには、欠けた部分を充填する素材のテストサンプルや、実際に作業する時のテーブルの様子の再現もしました。

修復道具や材料を並べたテーブル

その後、写真を見せながら、私が普段どのような仕事をしているのかを簡単に紹介しました。

コンサバターの仕事について話している様子

修復で向き合うのは、傷ついていたり、汚れていたり、壊れていたりする作品たちです。それらを、なぜ私たちは残そうとするのでしょう?なぜ捨てないのでしょうか?
私は子どもたちに問いかけながら、記憶や思い出といった「目に見えないもの」も大切だよね、という話をしようとしていました。けれども、私が言うまでもなく、思いがけず子どもたちのほうから、次々に率直な言葉が返ってきました。

そのときの具体的な言葉をすべて思い出せないのが残念ですが、私の記憶に強く残っているのは、子どもたちがとてもまっすぐに、自分の考えを言葉にしていたことです。

そうした「目に見えないもの」も含めて、作品や資料を展示し、研究し、みんなに伝えていくのが学芸員さんの仕事です。今日の体験を通して、美術館や博物館で作品が展示されるまでの裏側を、少しでも想像できるようになってくれたらうれしいです、と子どもたちに伝えました。

鯉のぼりで観察の練習

修復において、観察はとても大切です。ワークショップのタイトルにある「コンサバターはモノの探偵!?」という言葉は、修復では、ものをよく観察し、そこに残された痕跡から過去の環境や出来事を推測していくことが、探偵に似ていると、以前ブログに書いたことがきっかけになっています。その内容に学芸員さんが共感してくださり、今回のワークショップのタイトルになりました。

余談ですが、私が学生時代に大英博物館のチーフ・コンサバターにお会いした際、「大英博物館のコンサバターになるには、何が一番大切ですか?」と質問したことがあります。それに対して彼は、「よく観察できること」と返してくれました。この言葉は今でも心に残っています。実際、修復の処置を始める前も、処置の途中でも、観察は欠かせません。そして観察する力は、修復に限らず、人生のさまざまな場面で役立つスキルなのではないかと思います。

そこで、観察の練習として観察ゲームを行いました。ミュージアムの教育普及資料の中にある大きな鯉のぼりを端から端まで広げ、それを境に大人チームと子どもチームに分かれて、発見の練習をします。

修復でも同じですが、離れて全体を見ることで気づくこと、近くで肉眼で見ることでわかること、さらに顕微鏡や分析機器を使って初めて見えてくることなど、観察にはさまざまな段階があります。まずは鯉のぼりから遠く離れた位置に一列に並んでもらいました。そこから、気づきを一つ発言するごとに一歩前へ進みます。距離が近くなるにつれて、ルーペを使えるというルールにしました。

子どもチームはぐんぐん前に進み、あっという間に鯉のぼりのすぐそばへ。やがて大人も子どもも一緒になって、鯉のぼりをじっくり観察しました。銀色にきらきら光る部分があること、手縫いであること、黒にもさまざまな濃淡があること、よく見ると青が混ざっていること、皺の入り方や色あせ方、絵具がにじんでいる部分など、終わりがないのではと思うほど、たくさんの視点が見つかりました。

鯉のぼりを使用しての観察ゲーム
ルーペ使って観察

親子でミュージアム資料を観察

十分に観察のウォーミングアップをしたあと、次は親子でペアになり、ミュージアムの資料を観察しました。先ほどの部屋の一角につくられた”ミュージアム”から好きな資料を選び、自分の机まで慎重に運びます。ものは体に近づけ、両手で持つこと、周囲に気を配ることなどを伝えながら行いました。

どのように持つか、歩く時に気を付けることなどを伝える

観察の中で見つけたことや、「あれ?」と感じた疑問を、矢印や吹き出しの形をした付箋に書き、該当する場所の近くに貼ってもらいました。資料の周りが付箋でいっぱいになるほど、多くの気づきが集まりました。

親子で観察してる様子
ルーペを使って観察
そろばんを観察してわかったことのポストイット
たくさんの気づきと問い

もののまわりがいっぱいになってしまうくらいたくさんのことを見つけた子、確かになんでだろう?と大人もハッとする問いもありました。

気づきの付箋と問いの付箋

簡易なデジタルマイクロスコープで表面を何十倍にも拡大して観察したり、ブラックライトを使ったりもしました。どちらも実際の修復で使用する道具です。特にデジタルマイクロスコープは、普段見ている世界が一気にミクロの世界へと変わるため、大人も子どもも興味津々でした。

デジタルマイクロスコープを使って詳細を観察。みんな興味深々
デジタルマイクロスコープで見た繊維の様子
デジタルマイクロスコープで木を見た様子

修復のクリーニング体験

観察のあとは、修復のクリーニング体験です。ミュージアムでも使用される、吸引力を調整できるポータブル型のミュージアムクリーナーを使い、親子でペアになってクリーニングのリレーを行いました。コーヒーの粉を汚れに見立て、刷毛で掃き入れるようにして吸引します。布や石などの障害物を置いて、布が吸い込まれないようネットを張った木枠で軽く押さえながら吸い取ったり、石の表面の穴に入った埃をブロアーでやさしく飛ばしたり、工夫しながら掃き進みました。

石の上のコーヒーの粉をノズルに向けて掃いている様子
布は吸い取らないように木枠のあるネットで押さえる

続いて、自作の綿棒づくりにも挑戦しました。立体物の修復では、表面の凹凸やカーブに合わせて、その都度、脱脂綿と竹串で綿棒を作ります(※動画参照)。

ミュージアムの所蔵品は実際にワークショップではクリーニングできないため、石膏や陶器、アクリル絵具の板絵、金箔を施した試料を用意し、煤や水彩絵具で汚したものを、各自が作った綿棒で少量の水を使ってクリーニングしました。これらは実は、私が以前にクリーニングを経験した作品に近いものをアレンジしたもので、実体験が伝えられるようにしました。

クリーニング前の作品写真;石膏に金箔を貼ったアボカドとレモン
木板にアクリル絵具で彩色し、煤汚れをつけたもの
さまざまな大きさの自作の綿棒
綿棒に少し水をつけてクリーニングしている様子

作業が始まると、みんなとても真剣です。ぐんぐんきれいになっていく様子は、やはり気持ちのよいものです。

自作の綿棒で板絵をクリーニング
親子で対話しながら、どう修復するか決める

脱脂綿と竹串でつくる綿棒は、子どもたちには意外とハマります。
下の動画では小さめの綿棒をつくっていますが、たとえば油絵の表面のクリーニングでは、平面を広く拭う必要があるため、より多くの脱脂綿を使って大きな綿棒をつくります。

脱脂綿と竹串で綿棒をつくりながらクリーニングしている様子。汚れたらその都度取り替える

手を動かしながら、考える

最後に、それぞれがクリーニングした作品にミニ報告書を付けてもらいました。作業前の作品の様子、行った作業内容、気をつけた点などを記入し、キャプションとともに展示、みんなで鑑賞しました。私自身は、オリジナルを傷つけないように注意を促したり、どこまでクリーニングするかといった判断について、方向付けを全く言っていませんでしたが、参加者のみなさんは自分たちで考え、自然と丁寧に作品と向き合っていました。

特に印象的だったのは、金箔のクリーニングをしていた子の気づきです。石膏で作ったレモンやアボカドに施した金箔層の下には、金箔の発色を良くするための黄色い絵具層があります。クリーニングの途中で、黄色いものが見えてきて「あれ、どっちがもともとだったのか?」とその子は疑問を持ったのですが、これは実際の修復現場でも起こることです。どの層がオリジナルなのか、除去するべき層より下の層を除去していないかを見極めるには、丁寧な観察が欠かせません。良く見ず機械的に手を動かしていると、大切なオリジナルを取り除いてしまう可能性もあります。
 

ミニミニ報告書

最後に、川崎市市民ミュージアムの所蔵品や、現在行われている水害によって被害を受けた作品の修復について、杉浦さんからお話をしていただきました。色や見た目が変わってしまった作品を、できる限り元の状態に近づけるための処置事例を写真とともにご紹介いただき、参加者のみなさんが、修復やミュージアムでの活動を少し身近に感じてくれたことを願っています。

日本では、ミュージアムにコンサバターが常駐している館は、まだまだ少ないのが現状です。また、一般にはあまり知られていない職業でもあります。今回、学芸員とコンサバターが連携し、コンサベーションと展示がつながる形でワークショップを行えたこと、そして参加者のみなさんに「コンサバターのミニ体験」を楽しんでもらえたことは、私にとっても大切な経験でした。

川崎市市民ミュージアムの杉浦さんをはじめ、職員のみなさま、そして友人には、多大なご尽力とご協力をいただき、心より感謝しています。内容盛りだくさんのワークショップとなりましたが、ものをよく見ること、手を動かしながら考えること、今あるものから過去を推測することを楽しんでもらえる時間がつくれました。

また、このような体験を通して、コンサベーションのおもしろさを共有できる機会を、今後もつくっていけたらと思っています。

「コンサバターはモノの探偵⁉ よく見て・調べて・発見しよう」
開催日:2025年5月3日(土)・4日(日)
対 象:小学3~6年生と保護者(5・6年生は子どものみの参加も可)
参加費:無料
主催:川崎市市民ミュージアム
講師:森尾さゆり


川崎市市民ミュージアム公式WEBサイト
https://www.kawasaki-museum.jp

川崎市市民ミュージアム Blog 2025年06月02日2025年06月02日
ワークショップ「コンサバターはモノの探偵!? よく見て・調べて・発見しよう」を開催しました
https://www.kawasaki-museum.jp/blog/8100

川崎市市民ミュージアム 収蔵品レスキューについて
https://www.city.kawasaki.jp/250/page/0000122172.html

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