『Collections Chat』

“A safe space for conversation (会話のための安心できる空間)”


2023年10月に、国立アートリサーチセンターが東京藝術大学とブリティッシュ・カウンシルと開催した「Art, Health & Wellbeing −ミュージアムで幸せ(ウェルビーイング)になる。英国編」1で、イギリスのマンチェスターにあるプラット・ホールの取り組みが紹介されました。

プラット・ホールは、18世紀に建てられた国指定の歴史ある建物で、1926年からはマンチェスター・アート・ギャラリーの一部になっています。最近は、「Platt Hall In-between」というプロジェクトが始まり、この場所の可能性を引き出し、建物やコレクションを通して、ホールと地元のコミュニティを結びつける新しいアプローチを模索しています。

その一環として、マンチェスター市立美術館のラーニング・マネージャーのルス・エドソンさんがシンポジウムでお話されたのが、「Collectons Chat」2という活動です。

コロナウイルスのパンデミックによりロックダウンとなったイギリスでは、人のつながりの機会が減り、孤立や孤独感が健康に大きな影響を与えました。そんな中、プラット・ホールでは”どのように博物館のリソースが市民の支援となり得るか?”という問いから発展し、General Practitioner(一般開業医)やヘルス・アンド・ウェルビーイングの機関と提携して2020年にこのプロジェクトがはじまりました。

参加者がコレクションからオブジェを2つ選び、それを出発点として、少人数のグループで考察や記憶、経験の共有をします。コレクションを前に、一緒に対話しながら探索するこの対話は、面と向かうと詰まったりむずかしくなってしまうコミュニケーションも、共通の”もの”を介することで、会話をしやすくするそうです。

Collectons Chat 


このプロジェクトは「もの」から始まる対話という点がとても興味深いです。私は修復において、ものと対話するような、じっくりと観察することが好きですが、これをみんなで共有すると、それぞれの経験や記憶から発想がピンボールのように触発されていくのが面白いなと感じました。対話の内容やでてきた言葉は、絵と文字で一枚のビジュアルの資料として記録されます。

今回は写真家の香川賢志さんの「small museum」3という、子どもたちがつくった作品が捨てられてしまう前に写真の記録として架空のミュージアムに収蔵する活動で撮影した写真をお借りして、オンラインで6人のグループで写真を見てみました。

コレクションズ・チャットでみた作品
対話の内容を書き出して一枚にまとめたもの
コレクションズ・チャットで2つ目にみた作品。

印象に残ったのは、子どもの作品を見ることで、自分の子ども時代に作ったものの思い出や、子どもの世界に入るような想像が広がったことです。それが何であるか明らかに分からない作品には、様々な違った見方が出て、興味深く感じました。

使用させていただいた香川さんの写真には、作品全体と詳細にズームした接写写真もあったので、使われた素材や接着された様子などのディテールも対話の種となりました。

今回はオンラインでしたが、リアルでやってみたり、子どもと対話したり、医療やケアの現場でもできたら良いなと思いました。

Photograph © Kenji Kagawa

  1. 共創フォーラムVol.1Art, Health & Wellbeingミュージアムで幸せになる。 英国編   https://ncar.artmuseums.go.jp/events/learning/wellbeing/post2023-6.html ↩︎
  2. Collections Chat in lockdown 2020-2021 https://www.platthall.org/collections-chat.html ↩︎
  3. Small Museum https://smallmuseum.theshop.jp/  ↩︎
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