修復ワークショップ【2023.12.23@QUESTION, 京都】

去年の12月に、京都府河原町御池にある『????』のサインが印象的な「QUESTION」にて、ニッセンさん主催、京都市・QUESTION・空き家バンク京都さん共催の「未来へつなぐ架け橋プロジェクト 伝統工芸ワークショップ」に、保存修復のワークショップとして参加させていただきました。

QUESTIONのエントランス。「????」が印象的
ブースの様子

保存修復の作業体験

コンサベーションを伝えるための子ども向けワークショップを、東京の町田市を中心に開催しています。いつか京都でワークショップをやってみたいと思っていたところ、「QUESTION」さんのご協力により、修復のワークショップの機会を得ることができました。

「未来へつなぐ架け橋プロジェクト 伝統工芸ワークショップ」というテーマで行われたこのイベントでは、和ろうそく、桐箱、畳などの伝統工芸に関わる方々がブースを出展し、絵付け体験や京コマの制作、畳の制作などが行われていました。伝統工芸のものづくりとは異なる立場ですが、未来へつなぐには保存修復も大事ということで、参加のお話をいただきました。

私が担当したブースは、ものを持ち帰ることはできませんが、あたらしい視点や体験を持ち帰ることが出来る保存修復の体験コーナー。実際の本物を持って来て修復するわけにはいかないので、私がロンドンで修復した作品のレプリカをつくり、クリーニング作業を体験してもらいました。

実際のシールド(盾)をクリーニングしている様子。右側がbefore/左がafter ©The Fishmongers’ Company

The Fishmonger’s Company

なにをやろうかと考えた時、私が実際に修復したことのある実感のあるものが良いだろうと思い、今回のワークショップでは、2018年に行ったシールド(盾)のコンサベーションの経験を再現することにしました。ロンドンのテムズ川沿いに「The Fishmongers’ Company」という400年の歴史を持つ漁業組合があるのですが、その歴代の会長さんの名前とモットーが書かれたシールドが壁にずらりと飾られています。そのシールドの修復にたずさわった経験があり、その際に担当してくださった方に今回のワークショップのお話をしたところ、快く承諾ご協力いただきました。

壁にかかったシールド ©The Fishmongers’ Company
Banquet Hall ©The Fishmongers’ Company

シールドは、真ん中に凸状の油彩の部分と、まわりのギルディング(金箔押し)が施された木彫とで構成されています。今回は真ん中の油彩の部分を平面にアクリル絵の具で再現し、レプリカを作成しました。

左の写真が実際の盾、真ん中が今回作成したもの

コンサベーションのクリーニングでは、溶解テストとして、落としたい汚れや付着物とオリジナルの作品の表面それぞれに対して、どの溶剤が有効か、どれが効果がないかをサンプルとしてテストをします。一番の理想は ”汚れが落ち、オリジナルの表面にダメージがないこと” です。

今回のワークショップでは、アクリル絵の具の上に水彩絵の具と木炭で汚れをつけました。つまり、水に溶けない耐水性の画面に水で溶ける水溶性の汚れをつけたので、水で汚れを落とすことができます。乾くと水に溶けないアクリル絵の具と、水に溶かした水彩絵の具を瓶に入れて、実際に子どもたちに見てもらいました。

左が水彩絵の具、右がアクリル絵の具が乾いた後に水に入れたもの

実際のシールドの油彩部分のクリーニングの際も、綿棒に少量の純水をつけて行いました。でもここで難しいのは、すべてのシールドが違う年代、異なる作家が作成しているため、使用している素材も違えば以前に修復された箇所もあり、また200年前の油彩の表面の劣化は数年前のものとは違うので、気を付けていないと、水のクリーニングで実際の絵も一緒にふき取ってしまう可能性があることです。実際、白いペイント部分は水で問題がないけれど、急に青色だけが水で取れてしまうということがありました。そのような時は、他の溶剤を試すか、水を使わないドライクリーニング、もしくは何もしません。

コンサバターが使う綿棒づくりを体験

このように観察を要する修復作業なので、この盾の修復では、水をつけたスポンジで一気にクリーニングをすることはできません。目視をしながら、綿棒で徐々にクリーニングしていきます。立体物のクリーニングに使用する綿棒は、竹串と脱脂綿でつくります。なぜなら、大きさや硬さの調節ができるからです。

曲面を拭う時には、その径に合うように大きさを大きく、硬さを柔らかくしたり、細かな線を繊細にクリーニングしたいときは、竹串の先を削ってさらに細くし、そこに硬く脱脂綿を巻きます。

そんなお話をしながら、5歳のお子さんから年配の方まで、みなさんにもつくってもらいました。

綿棒つくりに挑戦
大きさや硬さが違う綿棒
実際のクリーニング ©The Fishmonger’s Company

竹串に綿あめのように脱脂綿を巻きとって、それを手先で包みながらキュッとかたちを整えます。自分でつくった道具でのクリーニングは、子どもたちにも面白いようです。つくった綿棒は、円を描くようにクルクル回しながら使うのですが、それと同時に竹串の軸も回すので、ちょっとしたコツと慣れが必要です。

汚れた面をずっと使い続けると、逆に汚れが広がってしまうため、こまめに新しく作りながらクリーニングをします。技をマスターする子、自分なりのやり方をどんどん開発していく子がいておもしろいです。これには決まった正しいやり方はないので、自分に合ったやりやすい方法に変えていきます。

自分でつくった綿棒でクリーニングを体験。 
5歳の子から年配の方までご参加いただきました。

UVライトで痕跡をさがす

修復するものは修復の前後が分かるように、処置前と後で写真撮影をするのですが、通常の室内の光での撮影に加えて、立体物の修復ではよくUVライトでの撮影も行います。UVライトの照射によって、過去の修復跡や、汚れの付着、接着剤やコーティング剤の有る無しが分かる場合があります。または、素材を特定につながる情報が得られることもあります。

左が自然光、右がUVライト。過去の修復で使用された素材がオレンジに発光し、一目瞭然。

今回は簡易なシークレットペンを使用し、黒い画用紙で暗がりをつくってUVライトをあててみました。

用意した4種類の接着剤サンプル(魚の膠、瞬間接着剤、万能ボンド、Primal WS24)それぞれにUVライトを当てると、発光の仕方が異なります。白く光ったり、青く光ったり、光らなかったり…。修復作業では、その発光の様子から素材を特定する手がかりを得ます。

クリーニングしてもらったレプリカにも、接着剤を一部塗ったのですが、4種類の接着剤のサンプルのUVの発光の仕方と比へて、どの接着剤である可能性が高いか、みなさんに考えてもらいました。

左側が自然光、右側がUVライト。透明な接着剤がUVライトの照射で薄緑に蛍光している。因みにこれは万能ボンド。

新しいつながり

京都の「QUESTION」というさまざまな方が集まる場所で開催された今回のワークショップ。いろいろな方とお会いし、お話しすることが出来ました。

「こんな職業がある事を初めて知りました!」とご感想をいただいたり、「もう一個やっていい?」と綿棒でのクリーニングが気に入ったようで、もっとやりたいと言ってくれた子。

はたまた、UVライトの子ども用セーフティーゴーグルが気に入ったようで、ずっとかけている子。

実はお掃除屋さんの仕事をしているんです、という近いご職業の方とお会いしたこと。

参加してくれた方がクリーニングしている間に、私も手元で他のものをクリーニングしていましたが、一緒に作業する中での会話はなんだかとても好きです。その中でコンサベーションの質問をいただいたり、参加された方ご自身の経験や興味を教えてくれたり。体験を通じて保存修復を身近に感じてもらったり、おもしろいなぁと感じてもらえればうれしいなと思っています。

ご参加のみなさま、ご協力いただいたみなさま、どうもありがとうございました!

主催:(株)ニッセン RiFUKURU  https://www.nissen.co.jp/s/rifukuru/
共催:QUESTION https://question.kyoto-shinkin.co.jp/ 
   空き家バンク京都 https://akiya-bank.org/blog/about/ 
後援:京都府  

写真提供:The Fishmongers’ Company https://fishmongers.org.uk/

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