町田市にあるアトリエアルケミストさんにて、金箔で絵を描くフランスの金彩技法 ”エグロミゼ” のワークショップを開催しました。
ワークショップ当日は、エグロミゼの歴史と技法の説明と金箔貼りの実演から入り、西洋と日本の金箔や道具の違いや、コンサベーションで使うギルディングの事例などの紹介の後に、金箔絵を描く制作をしました。後編では、当日の制作の様子をレポートします。
前編はこちら↓
金箔で描かれる世界
ガラス板に貼った金箔を削って絵を描くエグロミゼですが、ゼラチンでガラスに接着しているので、ひっかくと爪でも簡単に剥がれます。それを利用してスクラッチカードのように絵を削っていき、最後には黒い絵具やスプレーでコーティングして保護します。
細かい表現も可能で、陰影や立体感を持たせることも出来ます。私が修復を学んだ学校のファインアート科を卒業されたTuesday Riddellさんのエグロミゼ作品は、驚くほど繊細です。
エッチングのように細かい繊細な表現も出来ますし、ショーウィンドウのガラスに金箔で文字を入れるような平面デザインもできます。子どもから大人、細かい作業が好きな方から大胆なデザインが表現したい方まで、好きなデザインと技法が自分に合わせられるので、初めてやる方でも楽しめます。
親子と、大人のエグロミゼのワークショップをやってみて気づいたのですが、紙やキャンバスに描くのと違って、スクラッチのように削るという行為は、単純に楽しく、人を集中させ夢中にさせる力があるのかも・・と思いました。
どこを削って、どこを残す?
みなさんには、事前に図案や参考資料を持って来てもらいました。ワークショップで使用したガラス板は市販のもので、スチールのフレーム付きです。ガラス自体が12㎝x9㎝のポートレートで、それより一回り小さく金箔を貼るので、その金箔内に収まる図案で考えました。
削る面は最終的には裏になるので、すべて図案が反転します。なので、特に文字など反転して欲しくない場合は、図案をトレーシングペーパーでトレースして、裏返してから赤いカーボン紙を使って、金箔の上に転写します。
図案で一番悩むのは「どこを金色に残して、どこを黒くするか」です。金箔を残しすぎても映えないし、金と黒だけなので、隣り合うものは何かしらの境界を入れないといけません。背景は全部削って黒くするのか、それとも少し残して靄のようにするのか・・。やってみると、意外に悩みます。
金箔を削ってみる
ガラスに貼った金箔は、竹串や針などで引っ掻くと線が描けます。また、ステンシルブラシや、サンドペーパーなどで軽く叩くようにすると、陰影がでます。金箔を削ったところが、最終的に黒くなります。
昨親子エグロミゼを町田の薬師池公園のラボで開催した際にも、子どもたちとやってみましたが、コンサバターが使う竹串と脱脂綿でつくる自作の綿棒を使うテクニックも、今回皆さんとやってみました。ゼラチンは水で溶けますので、少し水で湿らせた綿棒で金箔を拭うと、竹串で引っ掻くよりも大きな面で金箔が取れます。背景などの大きな部分を取り除くには適しています。
制作が始まると、いろんな音が聞こえてきました。下の動画ではぜひ耳を澄まして、音も聞いてみてください。トントンと短い毛のブラシで叩きながら陰影を出していく人、少し湿らせた綿棒でずんずん金箔を削っていく人、甘皮を整える用の平たい面のある棒でシャッシャと金箔を除いていく人、そして鉄筆でとても細かい線を文字通りコツコツと音をたてて描いていく人。。それぞれの表現にあった道具を使っています。
なかなか何かに没頭して過ごす時間がとれない現代の私たちの生活ですが、みなさんと静かにゆっくりした時間が過ごせたこと自体が、とても私には嬉しかったです。
他の人の技を観察
エグロミゼの面白いところは、自分でどんどん技法や道具を開発していけるところです。決まった方法もルールもありません。竹串の代わりに小枝を使っても良いし、綿棒の代わりにセロテープを使ってペタペタと金箔を取り除いてみたって良いわけです。高い技術が無くてもだれでも表現できて、工夫が作品に活きる。そして、最終的にできた作品は、黒地に金箔で結構カッコよく仕上がります。
今回はワークショップの2時間内に製作を終わらなくても、ご自宅に持ち帰って制作が続けられるように、フレームの背景に光沢のある黒いフィルムを入れるようにしました。時間内に終わった方は、黒いスプレーで金箔の上にコーティングすることもやってみました。
参加者さんの作品。殆どの部分を綿棒を駆使して表現されています
他の参加者さんの作品をじっくりみる時間も取りました。少人数のグループでしたので、テーブルに置いた自分の作品から1個づつ隣にズレて、ポストイットにひとことコメントを書き込みつつ、他の全員の参加者さんの作品をそれぞれ観察しました。
同じガラスに貼られた金箔で始めましたが、そこに描かれるものは、奥行きもスピード感も風合いも全部違って、それぞれにとても個性的です。
ワークショップを終えて
エグロミゼという金彩技法をみんなでやってみることを通して、技法を知ってもらうだけではなく、金箔という素材自体や、コンサベーションの分野を少し垣間見てほしいという願いがこのワークショップの目的としてありました。
アンケートで、「西洋と日本の金箔の違いがおもしろかった」という声をいただいたり、「実際の修復を見てみたい」と修復にもご興味を持っていただけて、嬉しく思いました。
ご参加いただいた皆さま、どうもありがとうございました!
これからも修復を知ってもらうワークショップや、子どもの探究や好奇心、素材に触れながら手を動かす機会をふやせるワークショップを企画、実施したいと思っています。
当日のサポートをしてくれた芝明子さん、ワークショップの企画、場所をご提供いただいたアトリエアルケミストさんに感謝です。ありがとうございました!
*写真は、参加者の許可を得て掲載しています。